宇宙混沌
Eyecatch

第9話:ただ前に進むだけ [2/3]

「それにしても、避難艇なんてよく持ってましたね」
 無事に島に降り立って、僕は他の皆と合流した。ラカムと団長さんは、今回助けてくれた艇の所に行っている。
「この規模の艇じゃ無いのが普通じゃない? ましてや個人所有だし」
「バレンティンが買ってくれたのよ」
 揺れで気分が悪くなったらしいヤイアをあやしながら、ナルメアさんが教えてくれた。
「本当はもっと大きなのを買うつもりだったみたいだけど、グランサイファーに出し入れするにはこのサイズが限界で」
「へえ」
「なんにせよ、切り離すような事態にならなくて良かったな」
 スツルム殿は避難艇の方に移動していた。グランサイファーが墜ちた時にロープを切る係として。
 僕はそれを裏切りだなんて思わない。僕もスツルム殿も、それが一番助かる人が多い最善策だって解っている。二人で一緒に死ぬくらいなら、片方だけでも生きている方がまだマシだとも思っている。
 解っていても、本当にいざという時はできないかもしれない。だからグランサイファー側では、残ったカタリナさんも剣に手を添えてロープを見つめていた。
「皆! ごめん、もうちょっと待ってて!」
 団長さん達が戻ってきた、と思いきや慌てて艇内に入り、お金の入った袋を手にまた乗り合い騎空艇の方に戻って行く。謝礼金の額が決定したらしい。
「いや~助かったぜ」
 ラカムはそのままグランサイファーの前に残る。連れられて来たもう一人の少女が、僕達に向かって微笑んだ。
「久し振り。スツルム。ドランク。他のみんなも」
「助けてくれてありがとうねオーキスちゃん」
「当たり前のことをしただけ」
「おーい、青い髪のお嬢ちゃん! もう出発するよ!」
 乗り合い騎空艇の乗組員がオーキスちゃんを呼ぶ。彼女は首を横に振った。
「私は此処で良い。この人達に会いたかっただけだから」
「そうかい? それじゃ」
「オーキスちゃんは良くても、スツルム達はあれに乗らなくて良いのか? 仕事なんだろ?」
「いや。具体的な予約が入っていた訳じゃない」
「そうか」
 ラカムは納得すると、本来の発着地へと向かう乗り合い騎空艇に敬礼する。暫くすると、団長さんも戻って来た。
「九死に一生~」
「大怪我した人も居ないし、不幸中の幸いってね。これも治しちゃってよ」
 ゼタは腕の擦り傷をジータに見せて、治してもらう。収拾がつくまで我慢してたのか。この子は見た目に反して大人だよなあ。
「で、原因は何だったんだ? オイゲン」
 僕が受けた説明を繰り返され、団長さんもラカムも拍子抜けしたような、複雑な表情をする。
「誰かに狙われたとかじゃなかったのは良いけど……」
「なんつーか……対策しづらいやつだな……」
「ま、良い訓練になったと思えや」
 得られるものは沢山あった事故だったねえ。僕は、今後の対処フローを早速話し合っている団長さんとラカムを見る。
「僕達は予定通り、此処でお暇するね」
「良いの? 予定の島じゃないけど……」
「オーキスちゃんに会えれば何処でも良かったんだよ。それに、僕の方も事情が変わっちゃったから」
「?」
 首を傾げる団長さん達に手を振ると、僕はスツルム殿とオーキスちゃんと共に港を後にする。
「ご飯にしようか。二人共何食べたい?」
「肉」
「なんでも。あ、でも、さっきケーキ食べた」
「うーん、じゃあメニューの豊富なファミレスみたいな所にしようか……」
 さて、何て言ってスツルム殿に引き返す事を納得させよう。取引の事を教えるつもりは無い。
「ドランク、どうかした?」
「酔ったのか?」
「え? なんで?」
「黙ってるから」
 スツルム殿もこくこくと頷く。
「あは、そうかも」
 そういう事にして誤魔化したが、スツルム殿は眉間に皴を寄せた。こりゃあ、バレるのも時間の問題かもしれないな。

闇背負ってるイケメンに目が無い。