宇宙混沌
Eyecatch

その靴音を僕は学ぶ


 依頼人に生け捕った魔物を引き渡した後、僕達は街で大きな荷物を抱えたエルーンの少年に会った。
「ヴォルケ」
「スツルム。ドランクさんも」
「買い出しか?」
「そう言えば聞こえは良いですけど、ドナのパシリですよね」
 ちっとも嫌そうじゃない口調でヴォルケは返す。
「仕事は無事片付けたようですね」
「ああ」
 スツルム殿の頬が少し緩む。付き合いの長さから言って仕方無いが、こうも簡単にスツルム殿の笑顔を引き出されるとちょっと悔しい。
「良かった。ドナが心配してたんですよ」
「ドナが……? なんて?」
「ドランクさんは強いけど、それは『最大の防御は攻撃』の様な強さだから、スツルムがそれで傷付かないかって」
「あー……」
 スツルム殿が僕を横目で睨む。
「実際こいつの攻撃魔法に巻き込まれたしな」
「ええっ」
「あと一瞬飛び退くのが遅れてたら、今頃あたしの脚は無かったぞ」
「その事は本当っにごめんって言ってるじゃない~」
 あと多分ドナさんの言った事、言葉通り怪我するって意味じゃないと思うんだけど……。
「やっぱりドナは人を見る目があるんですねー」
「だな」
「はは……」
 僕は苦笑で相槌を打っておいた。やっぱり僕、ドナさんの事は苦手だな。
「あ、そうだヴォルケ」
 何かを思い出した様にスツルム殿が切り出す。
「なんです?」
「ちょっと耳触らせてもらって良いか?」
「? 良いけど……」
「……あー、なるほどね……」
 嬉しそうなスツルム殿の様子を見て、把握した。山中で頭上を見たの、耳か。
「え、何がです?」
「何でもないよ~」
 僕達はヴォルケと別れると、なんとなく、先日過ごした公園のベンチに向かった。こつ、こつ、と石畳を叩く音を脳に刻む。
 ベンチに身を投げ出すと、尋ねた。
「一つ訊いて良い?」
「なんだ?」
「ヴォルケの耳どうだった?」
「毛が長くてふさふさしてた」
「僕のは?」
「毛足が短いからふわふわじゃない。でも毛並みが良いから手触りは良い」
「ふーん」
 ちょっとからかってやろうかな、という気になった。
「スツルム殿ってば、エルーンの男の耳触るフェチなんだ~」
「ちっ、違う! ちょっと気になっただけで!」
「え~じゃあ僕もスツルム殿の角触ってみたいなー」
「角は駄目!」
「えぇっ、そんなに嫌がる?」
 半泣きで自分の角を手で覆い隠したスツルム殿に驚く。急所とかだったりするのかな……。
「……あたしからも一つ良いか?」
「どうぞ」
「昨日なんで怪我してたんだ?」
「いやーちょっと理不尽な目に遭ってね!」
 夜の店で指名した女の子が、この地域のヤクザのボスのお気に入りで取り合いになったとか、ちょっと未成年の女の子には言えないな……。
「……ふぅん」
 興味無さそうな相槌を打ち、スツルム殿は空を見上げる。僕も見上げた。空の半分はオレンジ色に染まりつつある。
「帰ろうか」
「うん」
 立ち上がり、それじゃあ、と言った後、スツルム殿が僕を呼び止めた。
「お前、帰る場所あるのか?」
 ……痛い所を突いてくるなあ。
「スツルム殿が心配する事じゃないよ」
 また冷たく突き放してしまう。僕が彼女の優しさを素直に受け入れられる日は、果たして来るのだろうか。

Written by