その靴音を僕は学ぶ [2/4]
「ッハハッ!」
僕は魔物に向かって水鉄砲を食らわせてやった。巣穴までもう少し、という所で別の魔物の群れに囲まれてしまったのだ。
「ねぇ~スツルム殿ー。僕の魔法どう思う?」
「器用だが大技が多くて近接戦に向かないな。それに、詰めが甘い。追い払うだけじゃまた戻って来るぞ」
「そうかもね~」
スツルム殿は次々に魔物を斬りつけ、葬っていく。容赦無いな。時々的を外して危なっかしいものの、その次の一撃では必ず仕留める安定性がある……と、のんびり見ていられる状況ではなかった。
「あっ、待ってよ置いてかないで!」
戦っていると、彼女が視界から外れて見えなくなってしまった。追いかけようとしたが、また魔物が一匹飛びかかってきたので水を勢い良くぶつけて牽制する。
魔物だっていきなり生息地を荒らされて迷惑しているだろう。脅かして逃げてくれればそれで良い……そう思った僕の考えは甘かった。
「グルルルルルルル」
「!!」
気付けば、涎を垂らしながら唸る魔物達に完全に囲まれている。スツルム殿は逃げた魔物を追いかけて僕から離れてしまったようだ。
仕方ない。これは正当防衛だ。
僕は宝珠を掲げていない方の手から閃光を発する。周囲の魔物達を森の木々ごと一気に切り裂いた時、身の毛がよだつ声が聞こえた。
「きゃあああああ!」
僕の右後方から上がった悲鳴。
「スツルム殿!?」
魔物にやられたか? そう思って声がした方にすっ飛んで行くと、彼女は思ったよりも近くに倒れていた。
「スツルム殿!」
まずい。さっきの魔法に巻き込んでしまったらしい。
駆け寄ると、スツルム殿は顔を真っ赤にし、剣呑な光を宿した目で僕を睨む。幸い、見た所怪我は無い様だ。
「お前は! あたしの脚を捥ぐ気か!」
「ごめんごめん! 気付かなくて。怪我は無い? って痛!!」
靴の上から足を刺された。見かけによらず凶暴だなこの子。
「『気付かなくて』で済むか! 何がコンビを組みたいだ、連携も取れないくせに!」
彼女の言葉一つ一つが胸に刺さる。仰る通りで。
それでもとにかく宥めなければ、という気持ちが働く。
「怪我したの? 今治してあげるからそう怒らないで……」
「今回はたまたま大丈夫だ。本を見ながらじゃないとかけられない治癒魔法などかけて要らん」
流石にこの言葉にはカチンと来た。魔法書を出そうとしていた手を止める。
「僕にだって得手不得手はあるよ!」
とは言ったものの、これまで大技の圧倒的な力でねじ伏せておけば良い、というような戦い方しかしてこなかった所為で、必要性を感じず勉強を後回しにしてきた面はある。完全に逆ギレだ。
当然、スツルム殿も表情の険しさを益々増して言う。
「……傭兵にとって一番大事なのは、信用と他人とのコミュニケーションだ。お前にはそのどちらも無い」
「そんな事……」
言われたって。
だって誰かと力を合わせて何かするなんて、これまで誰も教えてくれなかったんだもの。
「とにかく、あたしは連携する気の無い奴とは組めない。巣穴から呼び出すのは任せる」
「え、あ、ちょっと……」
スツルム殿は自分で立ち上がると、罠の方に戻って行く。
僕は暫く呆けた様にその背中を見ていた。
「かっこいい……」
ふと漏れた自分の声で我に返った。いけない、僕は巣穴の方に行かないと。
それでも、一人で木々の中を進んでいるうちに、頬が緩む。やっぱり、彼女はかっこいい。一緒に仕事が出来て良かった。
てっきり殴られたり斬られたりするかと思った。大怪我をさせる所だったんだから、そのくらいされても文句は言えまい。なのに正論で殴るだけで済ませてくれたんだ。見習わないと。
そこであれ? と気付く。そう言えば足は刺されたような。
立ち止まって下を見ると、既に痛みを忘れ去った足は血が出るどころか、靴にも傷一つ付いていなかった。
「……ドラフってやっぱり器用なんだなあ……」
♥などすると著者のモチベがちょっと上がります&ランキングに反映されます。
※サイト内ランキングへの反映には時間がかかります。