宇宙混沌
Eyecatch

その男は風のように/こう見えて甘党 [2/2]

 ユーステスは悩んでいた。
 戦いから解放されてからというもの、全く活躍の場が無い……。
 グランサイファーを降りたユーステスは、暫くベアトリクスが職を転々とするのに付き合った後、二人で小さなお菓子屋を開いた。勿論、お菓子を焼くのはベアトリクスの担当で、ユーステスは裏方だったり売り子だったりするのだが、最近ベアトリクスに言われた言葉に大いに傷付いた。
「んもー! ユーステスは店の奥に引っ込んでろって!」
 何故だ。先月お釣りの勘定を間違えて多く返してしまった事をまだ怒っているのだろうか。それとも俺みたいな不愛想な人間が店先に立っていると印象が悪いからか。
 俺は何をして過ごせば良いんだ。店のローンも残っているし、アルバイトでもして小銭を稼ごうとよろず屋に赴いたところ、ジータ達とばったり会ってこの仕事に誘われたのだった。ベアトリクスまでついてきたのは予定外だったが。
「頑張れエムブラスク! あともうちょっとだからな! 多分!」
 ベアトリクスが杖代わりにしているエムブラスクに声をかける。ユーステスにとってはベアトリクスとの二人暮らしも、ベアトリクスにとってはエムブラスクも含めた三人(人?)での暮らしだった。口数の少ないユーステスよりも、エムブラスクに語りかける頻度の方が高いのではないかとさえ思ってしまう。
 思わず溜息が出て、オイゲンに声をかけられた。
「どうした?」
「何でもない」
「んなこたねえだろ。こんなおっさんで良ければ話を聴くくらいはするぜ?」
 戦闘中に呑気な、と思ったが、プライベートの悩みで集中できていない自分が言えた事ではない。かいつまんで事情を話せば、笑われた。
「男にゃあ、己の無力さが身に沁みる時期もあるってもんよ。俺なんか妻子ほったらかして空飛んでたもんだから、しょっちゅうだったな」
「そうか」
「うわあああ!」
 突然上がったベアトリクスの悲鳴に顔を上げる。間一髪、吹き飛ばされてきた彼女をユーステスが下敷きになって受け止めた。
「おう、早速役に立ったじゃねえか」
「いたたたた……ってユーステス! 大丈夫か!?」
「あ、ああ……」
 ベアトリクスが飛んでいかないように抱き留めながら姿勢を正す。俺はこれから文字通り尻に敷かれて生きていくのだろうか……いや、別にそれが悪いとは言わないが、某エルーンとドラフのカップルみたいになるのはなんとなく嫌だ……。
 オイゲンが二人の無事を確認し、再び動き出す。
「一人で動けるな? ……?」
 ユーステスがベアトリクスの腰を離そうとすると、ベアトリクスの方から腕にしがみついてきた。妙に楽しそうである。
「一緒に戦うのも久し振りだな」
「お前のお守りはもうこりごりだ」
「そんな事言うなよ~」
「お前だって、俺が店に立ってるのは嫌がるだろう」
「ああ、だってさぁ……」
 ベアトリクスは急にもじもじとして、頬を染める。
「ユーステス、顔が良いだろ? だからアンタの事目当てに店に来る客が結構いてさ……」
「……そうか」
 ユーステスはそのままベアトリクスを抱き寄せる。口付けようとしたその瞬間、「はいはい、いちゃついてないで伏せてねー」と言う緊迫感の無い声と共に、熱風が頭上を掠めて行った。

闇背負ってるイケメンに目が無い。