宇宙混沌
Eyecatch

この身を賭して [4/6]

 剣を握る手に指輪は嵌められない。あたしの為に、ドランクはペアリングではなく揃いの耳飾りを買ってくれた。
 そしてそれを耳に付けた姿で、ドランクは堂々と他の女にちょっかいをかけるようになった。
「そこの綺麗なお姉さ~ん。この後暇? って痛って!」
「悪い、こいつの事は気にするな」
「は、はあ……」
「ドランク」
 絡まれた女性を解放し、あたしはドランクの耳を摘まむ。
「痛い痛い痛い、耳はダメ耳は……」
「懲りたか?」
「懲りましたぁ」
 手を離し、宿探しを再開する。
「もうちょっと繁華街の方探さない?」
 最近はラブホテルを使う事も多い。普通の宿より広いし、した後そのままベッドを移動せずに眠れるし、汚さないよう気を付ける必要も無くて楽だ。場所によっては騒音が気になるが。
「そうだな」
 けばけばしい色の建物に吸い込まれる。さっきはごめんね、と軽く謝って、ドランクはあたしの鎧を脱がせていく。
 好色。その言葉がぴったりだ。
「あ、んん、そこやぁ……」
「スツルム殿気持ち良さそうだね~。男冥利に尽きるよ」
 胸に口付けを落としたドランクの耳飾りが、ひんやりと素肌の熱を奪う。
 それにすら心臓を高鳴らせるあたしも、ドランクと大して違いは無いのかもしれない。

「野菜炒め、お待ち遠さまで~す」
「ありがとー。あ、待って君可愛いね」
 今日も今日とてドランクは女を口説く。とうとうウェイトレスにまで。
 あたしは先に届いていた麦酒を一気に飲み干すと、ダン、と乱暴にテーブルに置いた。
「わっびっくりした」
「帰る」
「え?」
「先に宿に帰る。飯は一人で食え」
「ええ~ちょっと~~~」
 慌てるドランクをほっぽって、昨夜から泊まっている宿へ。
 なんなんだあいつは。あたしの目の前で、これ見よがしにナンパを繰り返して。
「○○○号室の者だ」
「はいはい……あれ? 予約してるのエルーンじゃ……」
「その連れだ」
「そうでしたか。はい、どうぞ」
 受付で鍵を受け取る。個人経営の小さな宿だ。経営者夫婦の会話が、階段を上がるあたしの耳にも届く。
「あの子本当にお連れさん? ダブルベッドの部屋だよ?」
「ああ、一応ね。私も昨日びっくりしたんだけど……」
「変な噂が立たないと良いねえ。ま、旅の人っぽいし、何事も無く居なくなってくれれば……」
 歓迎されていない。それだけは解った。
 良い加減気付いている。異種族のカップルというだけで、この世界では奇異の目で見られるのだ。
 それはそうかもしれない。だって子供も作れないし、異種族間の結婚を認めている国も少ないし――
「キャア! ちょっとどうしたんですか!」
 部屋でベッドに伏せていると、階下で叫び声がした。慌てて剣を掴んで様子を見に行く。
「すみません、もう病院閉まってるんで、今夜一晩はこのまま泊まらせて――」
「いいやご遠慮願いたいね。ドラフの女の子を連れてて怪しいとは思っていたけど、血塗れで戻ってくる様じゃね。やっぱりやくざさんか何かかい?」
「ドランク!」
 受付で懇願していたのは青い髪の男だった。額を切ったのか、赤く染まった布で押さえている。服も所々乱れていた。
「どうしたんだ? 誰かに襲われたのか?」
「やー違う違う、僕から手を出したの」
「なんでまた」
 あたし達の会話を、オーナーが遮る。
「丁度良い、君も話を聞いていただろう? 今夜の分は返金するから出て行ってもらえないかね」
「わかった」
 ドランクが何か言う前に、そう答えて踵を返す。二人分の荷物をひっつかんで表に出た。
「ごめんね、迷惑かけちゃって」
「良い。とにかく別の宿を探すぞ」

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