この身を賭して [3/6]
『好きだったんだよねえ、その子の事。とても言えなかったけどさあ』
手紙の話をした時の夢を見ていた。
とても言えなかった。
何故?
陽の光に目が覚める。時計を見ると昼前だった。まずい、と思ったが、今日は休みと思い出してほっとする。
隣にドランクの姿は無い。水音がする。先に起きてシャワーを浴びているのだろう。
服を着て汚すのも嫌なので、そのままベッドで待っていると上がってくる。
「……おはよう」
声に覇気が無く、あたしの方が心配になった。
「おはよう。その……良くなかったか?」
異種族だし、と付け加えると、ドランクは濡れた髪をタオルで拭きながら隣のベッドに座る。
「そう。異種族だからさ」
やっぱり気持ち良くなかったのか。項垂れたあたしの耳に入ってきた言葉は、予想外のものだった。
「とても言えなかったし、一生言わずにいるつもりだった。仮に僕の方から気付いたとしてもね」
「え?」
「スツルム殿、初めてだったんだよね?」
「あ、えっと……」
隠しても無駄か。シーツに薄く滲んだ色を見る。
はあ~とドランクは大きな溜息を吐いた。
「とりあえず、シャワー浴びてきなよ」
シャワーから上がると、シーツは取り払われていて、ドランクはしゃがんで荷造りをしていた。
「もう一泊するんじゃないのか?」
「うーん、汚しちゃったからさあ、出て行ってくれって」
シーツを持って謝りに行ったのか。悪かったな、と青い頭をぽんぽんと叩いて、自分も支度をする。
「スツルム殿さあ、今後もこういう事したい?」
「お前は嫌なのか?」
声が震えた。ドランクは困った表情をする。
「僕は嫌じゃないよ。スツルム殿の気持ちを訊いてるの」
「あたしは……したい」
好きな人の側に居て、触れ合いたいと思うのは自然な事だろう?
「異種族だから、子供が作れないって解っててそう言ってるんだよね?」
「……解ってる」
エルーンとドラフの混血なんて見た事も聞いた事も無い。つまりはそういう事なんだろうとは、思っていた。
「子供は、欲しかった……好きな相手との子が欲しかったんだ。それがそもそも無理なら、無いもの強請りはしない」
「そっか」
ドランクは荷物の蓋を閉めると、あたしに向き直って跪く。
「それじゃあ、僕は、この身を賭して君を守るよ」
とても気恥ずかしくなって、その後の事はよく覚えていない。指輪がどうのという話をしたかもしれない。
しかしこの言葉の隠された続きが、「だからその為の僕の言動を許して」だとは、間も無く思い知らされる事になるのだった。
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