宇宙混沌
Eyecatch

お前には渡さない [5/5]

「スツルム殿~こっちこっち」
 僕は彼女の姿を捉えると、手を上げた。背の低い少女が駆け寄ってきて、隣に座る。
「? 此処、誰か座ってたか?」
「気の所為じゃない?」
 呼吸をするように嘘を吐く。スツルム殿は特に気にした様子も無く、尋ねた。
「今日はどうしたんだ、急に。しかも鎧と剣は置いて来いとか……」
「実はね、今日僕の誕生日なの!」
「え」
 スツルム殿は急に困ったような顔をする。
「え」
 僕もその理由が解らなくて困惑した。
「……おめでとう……。でも、祝えるほど、お金持ってきてない」
 なんだ、そんな事か。
「良いの良いの! 今日は僕の奢り! お店も予約してあるから」
「祝われる側が支払うの変じゃないか?」
「スツルム殿が向かいでご飯食べててくれるだけで嬉しいから良いのー」
 誰かと過ごす誕生日なんて何年振りだろう。僕は立ち上がって、スツルム殿を店へと連れて行く。
「……二十三、になるんだったか?」
「ああそれね、やっぱり数え間違えてた。今日で二十二が正解」
「お前……。帳簿付けとかはまめな癖に、どうして自分の事となるとそうなんだ」
「いやね、覚えてるのがバルツの暦と違ってさ……」
 スツルム殿が僕の顔を覗き込んでいるのに気付き、言葉を切る。何処の暦を使っているのか、と訊かれる前に話題を変えた。
「あ、あとね、僕、明日から暫くバルツを離れるから。その間一緒にお仕事できないの、ごめんね」
 毎年、誕生日には貸金庫の中身を検めて、証明機関に預けている遺言書を更新している。今年はついでに、投資先に預けた資金も引き揚げなきゃ。これから傭兵業を増やしていけば、これまでみたいに頻繁に面倒見られなくなる。
 でも、これで僕の命に価値が出来るんだ。僕が死んでも、スツルム殿は悲しんではくれないかもしれない。それでも、大した額ではないが、僕が持てるものを彼女に与える為に必要な情報を、僕は偶然手に入れていた。
「……わかった。戻って来たら、また本部に――」
「あー、いや、僕、もうあそこには行きたくないかな」
「え?」
 スツルム殿が歩みを止める。僕も立ち止まって振り返り、微笑んでみせた。
「所属してない僕がうろちょろしてたら、ギルドの人達に迷惑でしょ? ドナさんも良く思ってないみたいだし」
「そう、か……。そうなのか……」
 俯いたスツルム殿の顔を覗き込む。照れた様に口をすぼめた。
「来月中には戻って来るよ。そしたら夕方はあのベンチに居るようにするから」
 君が来たくないなら来なければ良い。でも、きっと君は来てくれる筈だ。
 スツルム殿を促して、再び歩き出す。
 だって僕が捕らえたんじゃない。君が僕を捕まえたのだから。
 それはドナさんが思う様な綺麗な関係じゃない。でも僕は籠の鳥でも構わない。この鳥籠の持ち主は、僕を連れて出掛けて、高い空と、そこでの羽ばたき方を見せてくれるから。

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