私は結局、彼が来るまでに答えを出せないでいた。最終的に、一回会ってちゃんと話してみて考えれば良いじゃないか、という結論に至った。
「此方です」
「失礼します」
ヴォルケが噂の人物を連れて来る。現れたのは、とても傭兵とは思えない綺麗な身なりをした青年。部屋に入ってくる時の挨拶や仕草も、礼儀作法がきっちりしていて驚いた。
「わざわざ出向いてもらって悪いねぇ」
そして、人当たりが良さそうな微笑み。その顔は私の推測通り、二人は同一人物だとはっきり証明していた。でも私はとても、目の前に居る人物が、あの日水をかけられて鋭く睨み返していた青年と同じだとは思えなかった。
思っていたよりも厄介な人間が来たな。
「名前を聞いて良いかい?」
「……『ドランク』、とでも名乗っておきますかね」
なるほど、そう来たか。スツルムの事、自分のものにしたいんだねえ。お前がそれを自覚しているかどうかはさておき。
……でも、そうは問屋が卸さないよ。だってお前、エルーンじゃないか。
私は彼に、スツルムと一緒に出来る仕事を与えてやった。彼と一緒に居れば、スツルムがいずれ傷付く事は目に見えていた。
楽しそうにスツルムを本部から連れ出す、満面の笑みを浮かべた男を窓から見下ろす。
「スツルムがそれで傷付かないと良いけどねえ……」
「……傷付くって、ほぼ確信しているんでしょう? なのに一緒に行かせるんですか?」
ヴォルケの問いに笑う。
「だって、楽しみじゃないか」
それでドランクに嫌気が差したら、スツルムは私の所に戻ってきてくれる筈だからね。