宇宙混沌
Eyecatch

うそつき


 最初からおかしいとは思っていた。いや、起きて自分の顔が豊満な胸に包まれていた時には、本当に動転したんだけど。
 だからとりあえず謝っておこう。誤解ならスツルム殿が否定してくれるだろうし。そう思ったのに、彼女の口から出たのは責任を取れとの言葉。まじか。
 その割には服も乱れてないしシーツも汚れていなくて、ずっと首を傾げていたんだけれど、スツルム殿が嘘をつくとは思えないし。あるとすれば、スツルム殿の性知識が足りてなくて、一緒の布団で寝ただけで子供が出来ると思ってるとかかなあ。
 とはいえ可能性を完全に否定できない以上、妊娠させた前提で動くしかなかった。なんて、今思えば無意識の願望が行動の選択に影響を与えていた。でもスツルム殿も責任取れって言ったんだし、楽しい結婚生活を送らせてあげなきゃ――
 ……楽しい結婚生活って何? 正しい子供との接し方? 無理無理無理無理。そんなもの知ってたら傭兵稼業なんてやってないし。
 案の定僕の付け焼き刃の知識は空回りして、どんな提案にも彼女は目を輝かせなかった。いや、まず望んだ相手じゃないという時点で絶望的か。
「こんなつもりじゃなかったんだけどなー」
 そりゃあ、あのナイスバディは一回抱いてみたいとは思ってたけどね。胸すべすべだったな。それ以外の記憶が無いのが残念だ。
 とはいえ、恋人や夫婦になろうなんて思っちゃいなかった。僕がスツルム殿と対等でいられるのは戦闘能力くらいだ。だから仕事の相棒が良いところ。
 でも、そう思って気持ちに蓋をしていたのは、僕だけじゃなかったのかもしれない。

 祖母の愛用していた香水を付けて眠るのが習慣だったが、スツルム殿と一緒の部屋に泊まるようになってやめた。スツルム殿も好きではないだろうし、あんまり夢に魘されなくなったし。
「子供、欲しかったらまた作れば良い」
 部屋の明かりを消そうとして、そう言われたのは彼女が仕事に復帰した夜の事だった。あまりにも唐突な振りで、手が止まる。
「……僕、別に子供が欲しい訳じゃないよ」
「ちょっとは期待しただろ」
「うーん」
 手を引っ込め、ベッドに腰を下ろす。期待、か。したかもしれないし、しなかったかもしれない。
「お前は、子供が要らないんじゃなくて、ただ怖いだけだ」
「スツルム殿は本当に痛い所突くよね~」
 冗談めかしてから、隣のベッドに飛び移る。
「していいの?」
 僕だって据え膳されて食わない訳はない。それに、責任を取るとは、僕がスツルム殿を娶るという意味だという事は彼女だって承知だろう。いや、本気で何も解っていないだけだったら流石に止めるけど。
 スツルム殿は意を決した様に頷くと、ゆるゆると寝巻の裾を上げて脱ぎ始めた。
「脱がなくて良いよ~と言うか僕に脱がせて」
 そう言うと手を止める。自分から服を脱いだって事は、知識が全く無い訳ではなさそう。
 という事は、僕の記憶が全く無いだけで、本当に抱いちゃったんだな。その罪悪感から目を背ける様に、僕は小さな花弁のような唇に自分の口を寄せた。

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