いつかは突然やって来る [6/6]
満足だった。夢のような一時だった。もうこのまま死んでも良いとさえ思った。
拒まれないというのはなんと幸せな事だろう。掌で、唇で、指で、舌で、張り詰めた欲望で。スツルム殿はどこを触っても本当に拒絶しなかった。
それどころか普段の姿からは想像出来ない愛らしい声で鳴いてくれた。初めて会った時に、彼女は僕の全てだと思ったけど、それの比ではなかった。本当に何もかもが僕の腕の中にあった。
それだけで十分だったのに、夜が明けると陽の光がそうじゃないだろって言った。此処で全てを投げ出して天国へ向かうなんて、現実は許してくれない。
僕は今日も一日仕事をして、次の仕事の目処をつけて、明日の仕事に備えて眠る。その繰り返し。それを共にしてくれるのがスツルム殿で本当にありがたいし嬉しいけど、その輪廻から外れる事はスツルム殿の事を考えても出来ない話だ。
でもこれが本当の幸せなんだと僕は思う。何も特別な事じゃないんだ。この一続きの人生を全うする事が、おばあちゃん孝行にもなるだろう。
だからスツルム殿の様子がおかしくても、一時的なものだろうと思って流す事にした。僕はスツルム殿が初めてかどうかなんてどうでも良かったけど、起きた後の反応を見るに初めてだったんだろうな。ベッドの上ではあんなに乱れてたのに。
そう考えると寧ろ楽しみだった。いつまでこんな初々しい反応が見られるんだろう。慣れてスツルム殿の方から仕掛けたり愉しませてくれるのも待ち遠しいなあ……
なんて、浮かれていたら油断した。昨日に続いて今日も相棒に怪我をさせるのは、流石に気が緩みすぎだ。
その自分への怒りをスツルム殿にも向けてしまったのは大いに反省している。しているとも。
「お前……骨砕けてるんだから安静にしろ……」
「なになに? スツルム殿がしてくれるの?」
「そうじゃない! 治るまでお預けだと言ってるんだ」
「そんなあ〜。全治何ヶ月だと思ってるの!?」
「別にこれまでだってしてなかっただろ……」
服の下に差し込んでいた手を抓られる。僕は呻いて、渋々スツルム殿を解放した。
「それより、お前がこの状態で仕事はどうするんだ」
「どうしようねえ。スツルム殿一人で行く? 僕は内職でも探すよ」
お金の問題はダイレクトに来ちゃうよねぇ……。数ヶ月の減収入の原因になった事は本当に申し訳なく思う。治療の為にこの街から動けなくなっちゃったし。
「仕方ないな……」
「うん。本当にごめ――」
謝罪の言葉は柔らかいものに押し返された。目の前には赤毛に琥珀色の瞳。
「す、スツルム殿……!」
「あ、あんまり落ち込むな! 事故は、あたしが山を降りた所為もあるし……」
スツルム殿からキスしてもらえた事で、すっかり元気になってしまった。もう一度、今度は僕から口付けて服の下を弄れば、今度は爪じゃなくて剣で刺された。
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