いつかは突然やって来る [3/6]
夜明けに隣で眠る体温に心臓が止まりそうになった。
昨夜はどうかしていたんじゃないか? 素肌を晒して、唇を重ねて、初めて見る男のそれで穿たれる悦びに酔った。
酔わなきゃこんな恥ずかしい事できないだろう、と思ったが、昨夜は殆ど酒は飲んでおらず、与えられる快楽を受け入れたのは間違いなく自分の選択だった。
初めてだった。勿論、知識が何もなかった訳じゃない。でも、柔らかい唇も、何処か甘い舌も、肉を押し退ける相手の劣情も、全て思っていたものと違った。
ドランクは終始優しかった。いつもの様に。なのに、何処か怖くて。行為に及んでいる相手が知らない人のような錯覚に陥ったのは、一度や二度ではない。その都度確かめる様に相手の手を強く握れば、ドランクは少しだけ速度を緩めてくれた。
夢の様な時間だったのに、妙に生々しい。初めてだったからか、溺れる程の快感は得られなかったのに、思い出すと肌の上に蘇る感覚はあまりにも刺激的だった。
とにかく裸のままで居るのが嫌で、ベッドの隅に丸められた服の中から下着を探す。いや、待て、その前に体を清めたい……。
ドランクを起こさないようにそっとベッドを降りたつもりだったが、相棒は気配に身じろぎし、瞼を上げる。目が合った。
急に顔が熱くなり、あたしは手に持った服で体を隠しながら一目散に風呂場へ逃げた。扉を閉めて服を置いたところで、流石にあの反応はまずかったのではと思い始める。まるでドランクを避けたみたいじゃないか。
「お、おい……」
とりあえず体を洗って服を着て、ベッドに戻って声をかける。ドランクは再び眠りに落ちていたようで、むにゃむにゃと言葉にならない声を出した。
「悪い、起こしたな」
「んー」
「風呂空いたから、入るか?」
「朝になったら入る……」
そう言ってドランクは二度寝を決め込んだ。あたしは朝になるまで、ただ居心地の悪いソファに座っていた。
「朝の鍛錬、行かなかったの?」
うとうとしていたらそう声をかけられる。まだ淫靡な匂いを漂わせているドランクが、最低限肌を隠して側に立っていた。
「あ、ああ」
つい目を逸らしてしまう。というか、ろくに姿が見れない。昨夜互いの全てを見た筈なのに。
「僕がお風呂上がるまで朝ごはん行くの待ってて?」
「お前が入ってる間に取ってくる」
「お肉はベーコンが良いな」
注文を付けられたが、ドランクが朝に食べるメニューはもう覚えてしまっていた。サラダとベーコンと卵。サラダはポテトサラダなら食べない。ベーコンが無い時はウインナーを少しだけ。あたしよりも少食で心配になった事もあるが、単に燃費が良いのだろう。痩せている訳じゃ――
と、ここで昨夜自分を包み込んでいた肉体を脳裏に浮かべてしまう。あたしはそそくさと立ち上がって、食堂へと向かった。
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