いつかは突然やって来る [2/6]
依頼主から報酬を受け取り、適当な店で食事を済ませる。相棒は珍しく口数が少なく、いつもこうして黙っていればもてるだろうに、とあたしは思った。
いや、違うか。認めたくはないが、あたしがとっくに惚れていたのだ。
お互い半分上の空で、酒を飲むのもそこそこに、店を出て宿を探す。部屋に入るなりシャワーを浴びる事も忘れて、同じベッドに転がり込んで互いの装備を外していった。
あたしの下着に手を触れる前に、ドランクが突如手を止める。
「……本当に僕で良いのかな?」
ここまで流れてきて何を今更。
「お前は誰でも良いのか?」
「……ううん」
それだけ答えて、ドランクは最後の下着も取り払うと、昼間ぱっくりと傷が開いていた場所に口付けた。
疾風怒濤。あたしの傭兵名と相棒の偽名とを合わせると、そういう意味になるらしい。
スツルムという名前は、ドナに考えてもらったんだったか。本名の意味が可愛いから、依頼主や協力者と会う前から舐められている事が多くて、中性的な傭兵名でも名乗ったらどうかと提案されたんだった。
それに合わせてドランクと名乗り始めたこと、知ったらこいつは良い気はしないだろうな。でも、怒濤というのは言いえて妙と言うか、上手く体を表す名前だと思う。
ある日突然現れて、あたしの全てを飲み込んで、攫っていく。
「お前、剣も使えたのか」
解かれた青い髪の先を指に巻き付ける。思っていたよりも柔らかい。
「一応習ってたからね」
「誰に?」
ドランクが寝返りを打って此方を向いたので、髪はするりと指先から抜けていく。
「学校」
「士官学校?」
「そ。アルビオンの」
士官学校に通っていたなら、妙に戦術や戦略の知識があるのにも納得だ。
「名門じゃないか。卒業したら国軍への就職くらい簡単だっただろ?」
金色の目が細められる。笑っているような、泣いているような。
「家に戻るのが嫌で、卒業式の後バックレちゃった」
絡まって同じ布団に包まれている間は、普段のらりくらりと躱される質問にも答えてくれた。快楽に浸って油断していたのかもしれない。
「ね、もう一回」
いくら若いからって体力ありすぎじゃないか? しかしその真意が話題を逸らす事にあるのは、なんとなく感じ取れた。
「スツルム殿」
再び繋がって、至近距離で囁かれた声は媚薬の様だった。
「好きだよ、スツルム殿」
やっと言ってもらえた。その想いがドランクの物を締め付けて、彼は笑う。ドランクはそれで満足したようで、あたしから同じ言葉を引き出そうとはしなかった。
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