いずれそうなる予感はしていた。
「スツルム殿!」
魔物退治の依頼。あたしは怪鳥の爪を受け、地面に転がる。肩を裂かれた右手から剣が滑り落ちた。
死ぬ。再度降下してきた魔物に覚悟したが、次にやってきたのは生温い感触だった。
「ドランク……」
駆けつけた相棒が剣を拾い、あたしを庇って魔物と刺し違えていた。同様にドランクの左肩に喰い込んだ爪からは多量の血液が溢れ、飛んで来た雫があたしの頬を濡らす。それでもドランクの切っ先はしっかりと魔物の喉首を捉えていた。
「いっちょ上がりっと」
ドランクが剣を横に振り下ろせば、怪鳥の死体も地に落ちる。ドランクは振り向くと、即座に回復魔法をあたしにかけようとして、一瞬躊躇った。
「胸、触るね?」
あたしの傷は肩から胸にかけて伸びていた。ドランクは詠唱や陣無しで治癒魔法が使えるものの、その為には患部に直接手を当てる必要があった。
「別に何処を触られても良い」
今更。腹や背中や尻だってこいつに治療してきてもらった。
ドランクはその答えにそう、とだけ呟いて、正面に回って手を当てる。みるみる痛みが引いていった。
「というか、お前の傷を先に治せ」
止血しようとあたしもドランクの肩を押さえる。ドランクはあたしの傷と服の破れや汚れを綺麗さっぱり元通りにしてから、あたしの手を包み込んで自分の傷に触れた。
「僕の事心配してくれるの?」
「当たり前だろ」
相棒なんだから。そう答えようとした口は、柔らかいもので塞がれていた。眼前には青い髪と金色の瞳。
いずれそうなる予感はしていた。若い男女の友情が必ず成り立つ訳ではないことくらい、あたしも知っている。
「本当に、何処でも、触っていいの?」
離れた唇は期待に満ちてそう問う。あたしは否定はしなかった。